下村健一著「首相官邸で働いて初めてわかったこと」

 週末、下村健一著「首相官邸で働いて初めてわかったこと」(朝日新書)を読了。新刊で、さっそく確かめたいことがあった。第一に、どのようないきさつで下村氏が菅直人当時首相の内閣広報室審議官になったのか。第二に、首相官邸の中で下村氏はどのような広報の役割を担っていたのか。下村氏はTBSの取材キャスターとして知られ、TBS退職後も「みのもんたのサタデーすばッと」などで活躍していた。
 
 彼は菅氏が新人議員のころから応援してきた熱心な「菅サポーター」であり、菅氏が「健ちゃん」と呼んでいたほど親しい間柄だった。それで招聘されたわけだが、官邸内の複雑な「システム」に阻まれて、最初は仕事らしい仕事ができなかった。それこそ官僚の厚い壁に囲まれて、身動きできないところから始まった。これは広報を生業としている小生にはじゅうぶん予想できることだった。
 
 次第に、彼の努力が認められて、首相演説、政府発表文の作成にかかわっていく。しかし、お役所文章とマスコミ出身者のガチなやり取りで、次第に消耗していく部分は共感できるものがあった。よく「攻めの広報」、「守りの広報」といわれる。40年間、企業、団体の広報活動にかかわってきた自分の経験から言えば、「守りの広報」などありえない。「広報とは勝利のための戦略」なのだから。
 
 いくつかの疑問は解けたのだが、書き手も読者も胸のうちにストレスを残したままに終わった感が否めない。下村氏のバランス感覚が微妙に働いていて、「毒気」が吐き出されていないからだ。そのため、読んでいてもワクワク、ドキドキしなかった。菅首相のヘリによる福島原発訪問、ダボス会議演説、辞任会見にも下村氏はかかわっていた。そのときのウラ舞台がある程度把握できたのが収穫だった。