小刀「マキリ」

 つい先日、テレビ番組で料理人が手際よく野菜をカットしていた。包丁ではなく小刀だった。本人は「マキリ」を使う、と言っていた。テロップで「魔切り」と出た。このマキリという響きが一気に自分を故郷に運んだ。
 
 昔、父や母が魚をさばく時には、いつもマキリを使っていた。自分も少し大きくなってから、マキリをつかっていたのだ。それが一人前の印だと思っていた。
 
 故郷を出てからは見ることも、使うこともなかった。完全に忘れていた言葉だった。父がロープや網などを準備する時にも、器用にこのマキリを使いこなしていた。そんなことを思い出した。「カズオ、家からマキリもってこい」、そんな懐かしい父の声が聞こえたように感じた。
 
 マキリは、漁師や職人などが漁場や水産加工場で魚をさばいたりするのに使う小刀のことだ。調べたら「北海道のアイヌ民族に伝わる万能ナイフ、あるいは東北地方のマタギや、日本海側の猟師たちが使うナイフもそう呼ばれるものがある」という。
 
マキリの書き方は「間切り」、「魔切り」、「魔斬り」などいろいろあるという。初めて意味が分かったような気がした。マキリを一本買ってこようと思った。