日比谷・松本楼

   読売「時代の証言者」に日比谷・松本楼の小坂哲瑯氏が連載している。今日は「文豪に愛されたカレー」。日比谷公園にある森のレストランとして知られる。1903年に公園とともに誕生した。今年は110年の記念すべき年だ。「松本楼はすぐに評判になったようです。まだ洋食が珍しかった時代、松本楼でカレーを食べ、コーヒーを飲み、デザートを味わうことがハイカラでした」と述べている。緑の中の特徴ある建物は別世界にも感じる。
 
 「松本楼の庭前に氷菓を味わえば/人はみな、いみじき事の噂に眉をひそめ/かすかに耳なれた鈴の音す」(高村光太郎智恵子抄」)、「公園の真中の西洋料理屋」(夏目漱石)、「カレーライス金拾五銭、ビーフステーキ金弐十銭、…」(松本清張)。「最近では2002年上期の芥川賞小説『パーク・ライフ』(吉田修一)が日比谷公園を舞台にしています。主人公が彼女と、松本楼でカレーを食べる場面があります」。
 
 最初に勤めた会社が新橋だったので、昼休みに先輩たちと日比谷公園にときどき出かけて息抜きをした。同期の友人とは二人で、お互いに好い事があったときには松本楼でカレーやランチを張り込んだこともあった。20代の勤め人のお昼代としては安くはなかったが、少し興奮しながら店に入っていったものだ。日比谷公園にはなぜかたまに行ってみたくなる。ベンチでぼんやり噴水を見たあと、松本楼でコーヒーを飲んで会社に戻ったこともあった。