鮭のハラス

  夕方、冷凍室から鮭のハラスを取り出して、自然解凍した。焼いて夕食のおかずにした。日本橋三越前にある「ご当地酒場・北海道八雲町」でランチの刺身定食を食べた時に、メニューに鮭ハラス焼き定食もあったからだ。隣の客がそれを食べていた。ハラスは魚の腹で、もっとも脂の乗った部分。大トロだ。鮭のはマグロよりも脂の甘さが濃い。
 
 「ハラス焼けたよ」、母はそう言って四人の子どもに大き目の一切れずつを皿に分けてくれた。その日は決まってご飯をおかわりした。獲れたての鮭のハラスは焼くと照りが出て、ますます食欲を刺激した。こうした魚の美味しさに対する嗜好は、漁師町に育とうが、都会の消費者であろうが変わらない。食べなれているかどうかの違いは多少あるが…。
 
 一緒にお昼を食べていたジャーナリストのS氏は、「いま、食材産地と都会の消費者が直結して来ている。直結することで産地は消費者のニーズを深く把握でき、また、嗜好の変化にも素早く対応できる」と語った。彼は地域振興・活性化の取り組みを早くから取材してきた。アンテナショップにも詳しい。食材産地のそうした取り組みの成否は、「直結」で決まると強調した。
 
 日本橋界隈や銀座・有楽町には各県・各地のアンテナショップが多い。居酒屋「八雲町」のすぐ側には奈良、三重、島根各県のアンテナショップが並ぶ。近くには北海道厚岸産のカキを食べさせる店もある。都心の消費者が日々求めているものを探り当てるために、高い地代を払って前線基地を置いている。都心の客は自らの「憧れの物語」を求めて店内に入る。