小女子の佃煮=いかなごの釘煮

   「P(リン)の数値が少し高すぎますね。なにか心当たりはありませんか?」―看護師さんからそう聞かれた。毎月二回の血液検査で栄養バランスや貧血、血液のサラサラ状態などを調べられる。とくにリンとカリウムの過剰摂取は「警告」を受ける。リンは骨や筋肉に悪影響を与え、カリウムの過剰は心臓に良くないからだ。
 
 「うぅ~ん、…肉と魚の摂り過ぎかも」。「今回の数値は珍しいですね。気をつけてください」、「気をつけます」。たしかに一日おきに食べる肉と魚の量は若い頃とほとんど変わっていない。でもそれはいつものことで、こんなに高い数値は出ない。検査前日の夜に何を食べたか、乏しい記憶の襞から思い出そうとした。駄目だった。
 
 家人にそう話したら、2秒ぐらいで言い切った。「小女子(こうなご)の佃煮よ」。上旬、小女子の佃煮を少しずつ毎日食べていた。帰郷した時に、弟が買ってくれたものだ。彼がひいきにしている積丹町美国の料理店「純の店」の手作り商品だ。佃煮の甘いうま味が子どもの頃に引き戻した。母が季節になると毎年作ってくれた。
 
 小女子がもう少し成長したものを大女子(おおなご)と呼ぶ。これも佃煮でよく食べた。小女子イカナゴの別名だった。かつて大阪に出張していた当時に、神戸の友人がときどき送ってくれた。「いかなごの釘煮は郷土食」だと話していたが、思ったより高いものだった。キタやミナミを案内してくれた彼の顔を思い出す。