生ニシンの塩焼き

   いま冷凍庫から生ニシン2尾を取り出した。午後まで自然解凍させて、夕方に塩焼きにするつもりだ。焼く前に一手間かけ、軽く塩をして30分ほど水分を抜く。いつものように新聞紙とクッキングペーパーを使い、生臭い水を吸い取る。ニシンが大きめなので、包丁で2本浅い切り込みをいれてから、荒塩をして焼く。もちろんたっぷりの大根おろしで食う。
 
 今年のニシン漁は出だしが良かったという。1月が5年ぶりに豊漁で、とくに月末には小樽海岸で「群来(くき)」が確認されたそうだ。産卵のため、海水が白濁する現象だ。残念ながら自分は見たことがない。生まれた頃から古平(ふるびら)のニシン漁は衰退していき、父や叔父たちからその自然の荘厳さと一夜千両の伝説を聞くばかりだった。 北原ミレイ石狩挽歌 の世界だ。
 
 まだ若い父が漁師合羽に頬かむり姿ですばやく漁の準備をしている。それが現実に見た記憶か自分のイメージかは分からない。弟と二人で父の作業をみるのがうれしかった。遠くから「おぉーい、二人で力いっぱい綱を引っ張れ」と父は大声で叫んでいる。幼い兄弟で競争しながら力を入れた。「いいどー」。その声に今の自分の声がますます似てきた。