糠鰊の三平汁

 糠鰊(ぬかにしん)の三平汁をつくった。塩抜きが甘かったので味がしょっぱすぎて、失敗。だし汁をたして塩加減を再調整してから食べた。冷凍庫に大きめの糠鰊とササゲ(豆の一種)が入っていたので、春が来る前に食べようとタイミングを計っていた。大根、ジャガイモ、ニンジンの根菜類をたっぷり入れた。何十年ぶりに独特のコクをもつ塩味の汁を飲み込んだ。
 
 積丹町の妹から届いた魚類の中に、余市町・糠塚水産の「糠にしん」とササゲが一緒に入っていた。糠と塩で熟成した大型にしんは、いかにも食欲をさそった。袋を開いてにしんから塩糠を手で取り除き、しっかり水洗いした。にしんの身にしみこんだ塩糠の味は、発酵した魚の旨味だ。懐かしいササゲや大根、ジャガイモにもその旨味は滲みていた。
 
 昔、母や祖母が糠にしんや鮭、タラの塩漬けを三平汁にした。藍色で染められた三平皿に盛って一人ひとりに出した。三平皿で食べるのが大人の仲間入りをするようでうれしかった。かつて三平皿を買ったようにも思うが、いま台所にはない。高い食器ではなかったが、皿の藍色には淡い記憶が混じっている。春雷の夜、少し上等な藍色の深皿で食した。