句集「花の昼」

   「やはらかき 母の髪切る 花の昼」
 
 ふじみ野市の友人・鈴木みすずさんから句集「花の昼」(伊吹嶺叢書、2015年2月)を贈られた。表紙をめくると冒頭の句が自筆で書かれていた。柔らかな空気が満ちて、みすずさんらしい。日曜日に受け取ってから、ゆっくり鑑賞させてもらった。
 
 「序」で栗田やすし氏(俳句誌「伊吹嶺」創刊・主宰)はみすずさんの句を次のように評している。「いずれも季語と微妙に響き合った確かな写生句であることに気づいた。四季折々の季感を聴覚で捉えた俳句で、際立った特質といえよう」。
 
 「伊吹嶺」に掲載された609句の中から精選した283句が収められている。【対象】を一瞬にして17文字の世界に写し込む技は優しく、鋭い。豊かな音感とか色感とかは天分と素養が融合したものだ。奥深さが一つひとつの句に込められている。
 
 美容師の鋏かろやか春隣
 シスターも乗るレトロバス秋うらら
 亡き夫の筆跡淡き雛の箱
 白雲の影走りゆく大青田
 百幹の竹を鳴らして時雨過ぐ
 蒲の穂を抜け来て風のほぐれけり
 ほろ酔うて祭りの波に揉まれけり
俎板に水ぶっかけて鰻割く
遅き歩の母のかたへに雪蛍
片減りの真砂女の墨や秋ともし