「おらおらでひとりいぐも」読後感

 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」を一気に読み終えた。作者は遠野市出身で、岩手言葉をつかいながら現在と過去を行き来する。(東北弁は8割方理解できる。かつて郷里にはそんな言葉で話す年寄りが多かった)。意外にも理詰めの展開だった。
 
 「遠野」というイメージや宮沢賢治の世界がときどき霧のように舞い降りる。論理的構成なのだが、「おらおらで・・・」と引っ張り込んでしまう筆力。読ませてしまう。今と過去が連鎖して、一人の女性の内包する多重性を書き解いていく。衝撃性は少。
 
 「百年泥」にも「おらおらで―」にも蛭(ヒル)が出る。蛭とは、非日常。インドと遠野の違いはあるが、両者とも嫌いなものの象徴として出てくる。作品終りの文章はなかなか心に沁みる。「今、行くがら待ってでけで」「春の匂いだよ。早くってば」。