42年前の入社式

   42年前に上京して、4月1日の入社式に仲間の新入社員と並んでいた。11人の新人たちは、風格のある先輩たち約150人を前に横一列になって「社長の歓迎挨拶」を聞いた。それは短いものだった。各部に1人、新人が配置された。3年先輩のY氏と1年先輩のSさんが自分の面倒をみてくれた。椅子に座っているのか、腰が浮いているのか、自分では分からないほどアガッていた。
 
 新入社員のほとんどが東京出身で、半数近くはこの会社でアルバイトなどをしていた。「純新人」は3人だった。都内の自宅から通うM君が帰りにいろいろなところに誘ってくれた。優しい人で、それくらいは早く経験したほうが良いと気を利かしてくれたのだ。それほどイナカ者だった。銀座や渋谷などの大きな交差点ではよくすれ違いの人とぶつかった。歩くタイミングが違っていた。
 
 二週間ほど大井町の友人のアパートから新橋の会社に通った。ラッシュ時の混雑はさすがに初めての経験だった。そのあと、西武池袋線江古田のアパートで生活し始めた。現在の東京メトロ小竹向原駅のすぐ側だ。池袋駅での乗り換えも人ごみにもまれたが、若かったのですぐに順応した。当時、会社では週に3回ぐらい若手勉強会が朝8時から一時間行われていて、文章の書き方などを習った。
 
 半年間は、仕事らしい仕事はできなかった。広報コンサルタントの会社だったので、とにかくY氏とSさんにくっついてクライアントに通った。一番初めのクライアントは「パレスホテル」だった。財界人がよく利用した。このホテルで開かれる大きなパーティーやイベントを取材して、マスコミに発信した。料理は田中徳三郎シェフ、ワインは浅田勝美ソムリエからレクチャーを受けた。豪華な勉強だった。
 
 今、自分はあの頃の期待と不安に胸が裂けそうな気持ちを忘れないで仕事をしているか?つねに最高の人から教えてもらおうという謙虚さは持続しているか? 対面の人間関係がもっとも大事だと実際に実行しているか? 一人でも多くそのような優れた人に会いに行く努力を継続しているか? 体が弱っているのだから、これらの気持ちを忘れずにもう少し仕事を続けていきたいと願っている。