女子栄養大での失敗

   読売・くらし面「私の先生」に食生活ジャーナリストの岸朝子さんが登場している。
 「『食は命なり』。この言葉をおまじないのように生きてきました。私にとって、女子栄養学園(現・女子栄養大学)で出会った香川綾先生(故人)は一番尊敬する先生です。私の一生に関わる大切なことを教えてくださいました。」
 
 かつての人気テレビ番組「料理の鉄人」の審査員として知られる。江戸っ子らしい歯切れの良いコメントは観ている者を自然に肯かせた。略歴に1923年生まれとあった。「98歳でなくなる直前までお元気でいらした綾先生にあやかって、私も100歳までがんばって、食の大切さを伝え続けたい」と語っている。
 
 女子栄養大学の本部は駒込にある。入社まもなく豪州から食品研究者が来て、上司から「お前が案内しろ」と指示された。その大柄な人は見事なオーストラリア訛りの英語を話すが、日本語はまったく駄目。ヤケノヤンパチ、新橋駅から山手線で連れて行った。駒込駅から小さな商店街を抜けて女子栄養大学本部に着いた。
 
 香川綾学長、教授陣20人ほどが広い応接室で待っていた。始めの3分ぐらいは挨拶程度だったので、なんとか通訳らしきことをしていた。しかし、すぐに栄養学の話に入ったので、いくら言葉を捜しても知っている単語は見つからなかった。見かねた一人の男性(たぶん教授の一人)が通訳兼進行役を申し出てくれた。
 
 坂戸の最寄り駅(東上線若葉駅)の近くに同大学の坂戸キャンパスがある。朝の登校時には駅から大学入り口まで生徒たちの人並みが続く。この行列を見ていると、若いあのときの失敗で顔が赤くなる。でも、趣味で少しの料理をつくるが、綾先生が考案した計量カップや計量スプーンをけっこう使う。今はなつかしく思う。