河井継之助の八十里越

 

 朝日be版「みちものがたり」、“八十里越(新潟、福島県)”で長岡藩・河井継之助を取り上げている。北越戊辰戦争で膝を負傷、担架で運ばれる河井ら長岡勢が会津に逃れゆく場面。司馬遼太郎小説「峠」でいちやく脚光を浴びた。

 

 30年前に長岡市で長尾医師から郷土史を聞いた。先生は山本五十六田中角栄河井継之助の名を挙げた。三人の生きざまの核心を語ってくれた。悠久山で北越戊辰戦争の悲劇をききながら歴史の交叉に立ち尽くしていた。

 

 それから十年後に会津若松市の酒蔵を訪れた。会津藩も“義”をつらぬいた。かつて会津山麓には比叡山と比すべき大学房があったという。長岡には上杉一族の文化が土壌にある。二つの文化をつないだのがこの峠道だった。

 

 高齢の長尾先生が背筋を伸ばして話された越後の“義”。若かった自分は半分も理解していなかった。ワンモアチャンスは叶わない。歴史に敗れゆく者の声は低く細い。それをこれから拾っていける楽しみをよろこぶ。