政府事故調委員長の所感

·        各紙は一面・社説ともに、政府の原発事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)が昨日発表した最終報告書を大きく取り上げている。社説では日経「物足りない原発事故調報告」、朝日「これで終わらせるな」、毎日「原因究明は終わらない」と、やや辛口な評価である。「国民が解明を望む事故への切込みが足りない。畑村委員長の意気込みは、空振りに終わった印象だ」(日経)などの見解が多い。読売社説は「原発の安全向上に教訓生かせ」と他紙とはやや異なる切り口で一定の評価をしている。
 
         昨夜ニュースを見ていて「委員長所感」という部分が気になっていたが、読売がコラムでうまくまとめている。「畑村委員長は、100年後の評価に耐えるように整理した七つの所感を最後に示した」とある。①あり得ることは起こる。あり得ないことも起こる。②見たくないものは見えない。見たいものが見える。③可能な限りの想定と十分な準備をする。④形を作っただけでは機能しない。仕組みは作れるが目的は共有されない。⑤全ては変わるのであり、変化に柔軟に対応する。⑥危険の存在を認め、危険に正対して議論できる文化を作る。⑦自分の目で見て自分の頭で考え、判断・行動することが重要であることを認識し、そのような能力を涵養することが重要である。
 
    畑村洋太郎氏は「失敗学」の提唱者である。安全工学などとも関係するが、工学・経営学などを網羅的に含んだ概念である。「失敗学のすすめ」 (20054月、講談社) の著者として知られる。失敗学の命名立花隆氏。畑村氏を会長に、特定非営利活動法人失敗学会2002に設立された。
 
    起こってしまった失敗に対し、責任追及のみに終始せず、(物理的・個人的な) 直接原因と (背景的・組織的な) 根幹原因を究明する学問のこと。失敗に学び、同じ愚を繰り返さないようにするにはどうすればいいかを考える。さらに、こうして得られた知識を社会に広め、ほかでも似たような失敗を起こさないように考える。原因究明 (CA: Cause Analysis)、失敗防止 (FP: Failure Prevention)、知識配布 (KD: Knowledge Distribution)3点が失敗学の核となる。
 
    失敗の種類は大きく3つに分けられる。1.織り込み済みの失敗。ある程度の損害やデメリットは承知の上での失敗。2.結果としての失敗。果敢なトライアルの結果としての失敗。3.回避可能であった失敗。ヒューマンエラーでの失敗。12の失敗は、「失敗は成功の元」となり得る失敗である。3の失敗は、失敗からさらなる悪循環が生まれる失敗である。